この土地を開墾する、つまりあらく[#「あらく」に傍点]を切るための労力でなくてほかに理由のあるはずはありません。
米友が胆吹山の下で開墾事業をはじめた。
これは、これだけの図を見れば驚異にも価することに相違ないが、筋道をたずねてみれば甚《はなは》だ自然なものがあるのです。それは後にわかるとして、こうして米友が一心不乱にあらく[#「あらく」に傍点]を切っているとき、
「米友さん――」
そこへ不意に後ろの林から現われたのは、手拭を姉《あね》さん被《かぶ》りにして、目籠《めかご》の中へ何か野菜類を入れたのを小脇にして、そうしてニッコリ笑って呼びかけたのはお雪ちゃんでした。
「御精が出ますね」
「うん」
米友も鍬を休めていると、お雪ちゃんはだんだん近寄って来て、
「少しお休みなさい」
「どーれ」
と言って、米友は鍬を投げ捨てて、まだ掘り起さない掛けごろの一つの木株へどっかと腰をおろしたが、さて、こういう場合に、抜かりなく、間《あい》のくさびにもなり、心身疲労の慰藉ともなるべき――アメリカインデアン伝来の火附草をとってまず一服という手先の芸当が米友にはできません。腰を卸したまま、両手を膝
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