変えなければならなくなりました。
しかし、駒井にまだわかりきらないところも、白雲には、いよいよ心胆を寒からしめるほどに深く突込まれるものがあるのです。王羲之《おうぎし》の孝経を一目なりとも自分に持って来て見せると誓ったような、あの不思議な応対が、今となっては犇々《ひしひし》と思い当る――奇怪、不埒《ふらち》、人を食った白徒《しれもの》――と奥歯を噛んでみたが、それにしても、頼まれてもやれない仕事を、好意ずくでやってみせようという男。やることに事を欠きこそするが、そこに憎めない何物かがある。結局、わからない奴だ、変な奴だ、油断のならない奴だ。だが、自分たちにとっては、好意のありたけを見せられたほかには、なんらの悪意を受けてはいない。
駒井甚三郎は、七兵衛なるものを、ようやく解しきれないものに見直したのは同じだが、白雲ほどに深刻にはこたえていないのです。そこで白雲も、自分の見直したところを率直に駒井に言ってしまうことが、なんとなく忍びないような気持になりました。
しかし、解釈の相違にその辺までの程度はあるけれど、何は措《お》いても、彼を一刻も早く救い出してやらねばならぬ、という気持は
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