す。
「やれやれ、これでどうやら一巻の終りになったが、かわいそうに、たたき込まれてお陀仏《だぶつ》になったらしい船頭親子――」
と言って、待ちくたびらかされたこちらの旅人たちも、改めて同情の眼を以て見る瞬間に、早くも船頭親子は、落ち込んだところから十間ばかり上流へポカリと浮き出して、二人とも河原に立って、着物を絞りながら馬鹿な面《つら》をして、逃げて行く大男の後姿を見送っている。
やれやれ、これでまあ、こっちも助かった、船頭親子も怪我がない限り、おっつけ舟も廻って来るだろう、と旅人どもは、市《いち》が栄えたような心持で、げんなりしたが、白雲ひとりだけの興味は、決してそれで尽きたのではありません。更に一層の興味をこめて遠眼鏡の筒を、逃げて行くウスノロ氏の後ろへ向けました。
こけつまろびつ走りつづけたウスノロが、ほどなく蘆荻《ろてき》の生いしげったようなところへ来ると、その蔭からパッと飛び出して、いきなり抱きつくようにウスノロ氏を迎えたものがあります。
「あれだ!」
白雲は、その者が兵部の娘もゆる嬢であることを直ちに認めました。
「ははあ、あいつら、こんなところに巣をくっていたのか、
前へ
次へ
全227ページ中188ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング