《やす》い。それにムクは、また目立ち過ぎる」
評議半ばのところへ、扉をやや手荒く外からおとなう者があります。
「誰だ」
扉を開いて、板張にかしこまっている男。
「船頭でございます」
「何か用か」
「あのムクが帰りましたそうでございますが、どうか、さきほどお願《ねげ》え申した通り、ムクをお借り申してえんでございます」
「うむ……」
と駒井が、急に返答をしないでいると、白雲が船頭に向って言いました、
「ムクを借りてどうしようというんだ」
「はい、ムクをお借り申しまして、マドロスの奴を追いかけてみてえと思って、殿様にさきほどお願え申してみたでございます。マドロスの野郎、思えば思うほど胸の悪くなる畜生だ、殿様の御恩も忘れやがって、わしどもを踏みつけにしやがって、どうしても腹が癒《い》えねえから、ひとつ、ムクが帰ったらば、ムクをお借り申して、あいつのあとを追いかけて、とっ捕まえて、思うさまひとつ懲《こら》しめてやらねえことにゃ……」
船頭は、余憤堪え難き風情《ふぜい》で、駒井へ直訴《じきそ》に来たものらしい。
ところが駒井は、いいとも悪いとも言いません。
つまり、うむ、では、直ぐに出か
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