人の子供のことで、これをよく面倒を見ることの方が、いたく人の心を刺戟しました。見ると与八彼自身の子供とは思われないのです。そうかといって、他人《ひと》の子供をあれほどまでに大事にするのも変なものだとは思われる。これには何ぞ仔細がありそうだという気はするが、それを聞咎《ききとが》めたり、調べ上げたりなんぞしようとする者は一人もなく、ただ、そういう光景を、そういう気持を以て眺めやるばかりのことでありました。
 こんなような働きぶりで、与八は幾日かを、藤原家の改築の工事のために働いておりましたのです。

         二

 ところが、この与八の経済学を無視した働きぶりを認めずにはおられないものが、ここに一人現われました。
 それは誰あろう、藤原家の当主の伊太夫以外の何人でもありません。
 伊太夫は、絶えずとは言わないが、思い出したように工事の見廻りをする。その見廻りの都度に、経済学を無視した一人のデカ物があることを、どうしても認めずにはおられませんでした。
 それとなく注意して見ていると、最も多く働いて、最も少なく得ることに甘んじて、そうして分配の時は姿を没し、曾《かつ》て不平と不満と
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