、是非なき必至の因縁でありました。

         七

 この場面へ、東の方より、つまり先刻道庵先生がファッショイ共を相手に一代の武勇をふるった枇杷島橋の方面からです、一梃の駕籠《かご》を肩に、まっしぐらにはせつけて来た二人の仁があります。
 これは雲助です。
 道中をこうして駕籠をかついで走る者に、雲助以外のものがあろうはずはありますまい。
 世間では往々、雲助と折助とを混同する者がある。混同しないまでも、ほぼ同様の性質を持っていると見るものがあるが、それは大きなあやまりで、雲助にとっては大きな冤罪《えんざい》であるが、その事は後に談ずることとし、とにかく、この場に於ける二人の逞《たくま》しい雲助は、この地点までまっしぐらに走って来たが、ただ見る清洲古城址の草の青黄色いところに、一人の狂人らしいのが児童走卒に囲まれながら、しきりに身ぶり声色を試みている体《てい》たらくを発見するや、後棒と先棒との見合わせる目から火花が散って、
「合点《がってん》だ」
 駕籠をそこにおっぽり出して、向う鉢巻勇ましく、やにわに走りかかって来たのは、意外にも道庵先生の身辺でありました。
 右の二人の逞
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