いしようと心仕度をしています。
そのうちの、ある晩、伊太夫が与八を訪れて、ハッキリとこういうことを発言しました、
「与八さん、変なことを言うようだが、お前と、それから郁太郎さんと二人、わしの家の養子になって、永久にここの家にいてくれまいか」
「え」
与八も、これには多少驚かされましたが、伊太夫は真剣でした。
「お前さんの身の上も、郁太郎さんの生立ちもよくわかりました、そこで、わしはお前に頼みたいのだが、どうです、二人一緒にわしの家の養子になって、この家にとどまってはくれまいか」
「そりゃあ、どうも……」
と、さすがの与八も、即答のできないのは当然です。
伊太夫は、いよいよ真剣でつづけました、
「わしの家には、あととりがない、親類もあるにはあるが……これに譲ろうというのは一人もない。与八さん、お前は、お前としての心願もあることだろうが、どうだろう、お前さんにその心がなければ、この郁坊を、わしに養子としてくれるわけにはいくまいか?」
「そりゃ、どうも……」
与八は、やっぱり目をパチパチしている。
「さあ、それが、おたがいの幸福になるか、不幸になるかわからないけれど、これでも、わしは
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