るうちに、どうしても飛行機の標準は、鳥類の骨格を研究することから始めなければならぬと覚りました。そうして、船はいかに進歩しても魚の形を出づることはできないように、鳥の形を無視しては飛行機の実現は覚束ないものだという原則を摘《つま》み出しました。
そのうちに、ふと菅茶山翁《かんさざんおう》の「筆のすさび」という書物を見ると、こんなことが見出されました――
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「備前岡山表具師幸吉といふもの、一鳩をとらへて其身の軽重、羽翼の長短を計り、我身の重さをかけくらべ、自ら羽翼を製し、機を設けて胸の前にて繰り搏《う》つて飛行す、地より直ぐに※[#「風+昜」、第3水準1−94−7]《あが》ることあたはず、屋上よりはうちて出づ。ある夜、郊外をかけ廻りて、一所|野宴《やえん》するを下に視《み》て、もし知れる人にやと近より見んとするに、地に近づけば風力よわくなりて思はず落ちたりければ、その男女驚き叫びてにげはしりける。あとには酒肴さはに残りたるを、幸吉飽くまで飲食ひしてまた飛ばんとするに、地よりはたち※[#「風+昜」、第3水準1−94−7]《あが》りがたき故、羽翼ををさめ歩して帰りける
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