り、先頃まではお雪ちゃんの部屋であったところの柳の間の隔ての襖《ふすま》がサラリとあいて、そこから有無《うむ》を言わさず乗込んで来たものがあるので、ピグミーは逃げようとしても逃げられない。
「泣くことはないじゃないか、取って食おうともなんとも言やしないよ、お前と一緒に遊んであげたいから来たんじゃないの」
しかも、乗込んで来たその主《ぬし》の乗物というのは、一肩の釣台でした。
戸板へ畳を載せて、その上へ荒菰《あらごも》を敷いたばかりの釣台の上へのせられながら、口を利《き》いているのが、イヤなおばさんというんでしょう。だが、釣台を担《かつ》ぎ込んだのは誰だか、駕籠屋もいないし、親類組合の衆も附添うているというわけではない、隔ての襖がひとりでにあいて、その間から、すーっとひとりでに釣台が流れ込んで来たようなものです。
この釣台の乗込みによって、極度の恐怖におびえきったピグミーは、
「わあっ! おばさん、来たね、おばさん、裸じゃないの、この寒いのに、どうして裸で来たの、驚いたね」
泣きわめきながらピグミーは釣台の上を見ると、まさにその通り、釣台の上にのせられたイヤなおばさんは、一糸もつ
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