っちへあがると、わっしはおばさんに食われてしまいそうな気がして、怖くってたまりませんから……なんならこっちへおいで下さいましな、食物もございます、明りもついておりますよ、こっちで、ゆっくりお話を伺おうじゃありませんか」
「弱虫だねえ。だが、わたしゃそっちへ行けないから、お前、こっちへおいで」
「どうしてでございます、イヤなおばさん」
「だって、そっちには見ず知らずのお客様が寝ている」
「見ず知らずとおっしゃったって、ちっぽけな坊さんです、その坊さんも、死んだように寝ているんですから、差支えはございません」
「さしつかえはなかろうが、わたしは坊主は嫌いなんだよ」
「これは恐れ入りました、坊主と申しましたところで、三つ目のある入道ではなし、あなたほどの豪の者が、坊さんを怖がるとは不思議ですね」
「何だか知らないが、わたしは坊主とさつま芋は虫が好かないのさ、そればかりじゃない、いま動けないわけがあるから、ちょっとこっちへおいで……」

         六

「お前がどうしても出向いてこなければ、こっちから出向いて行くよ」
「わあっ!」
 ピグミーが大声あげて泣き出したに拘らず、次の間、つま
前へ 次へ
全433ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング