がさっき玄関で送り出していた、あの若衆と一緒に旅をしたいのよ」
「え、え」
お角さんは、思わずお銀様の面《かお》を見上げて、また急にその眼を伏せてしまいました。それっきりお銀様がつぎ足さないものですから、お角さんがようやく口を切って、
「あの、梶川様でございますか」
「はい、あの人を一緒に旅に入れて歩けば用心にもなり……」
「でございますが、お嬢様」
お角さんは、退引ならず一膝乗り出して、
「でございますがお嬢様、あの方はいけますまい」
「どうして」
「どうしてとおっしゃいましても、あの方はあれで、相当の考えがございましょう」
「相当の考えと言ったって、お前、あんな騒動を起して、どこかへ隠れたがっている人だろう、どこときまったところへ行かなければならない方じゃありますまい」
「それはそうでございますけれどお嬢様、こちらでそうお願いしても、向う様も御都合がおありでしょうから」
「でも、お前から言って上手に話せば、承知をしないとも限りますまい」
「それは、お話し申す分には、わけはございませんけれども……」
「では、お前、このことを話して頂戴、そうしてわたしは、これからあの方を自分の駕籠
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