ようとも、お前は手出しをしてくれるな、道庵は道庵だけの能ある爪を持っている、平常は隠して用いないが、いざとなれば奥の手を出して、いかなる敵にもおくれを取るものではない。
 こういうことを言いましたけれども、米友はまたちゃらっぽこ[#「ちゃらっぽこ」に傍点]がはじまったという面《かお》をして取合わない。
 とにかく、今度は、いかなる眼前に危険が迫ろうとも、友様、お前は手出しをしてくれるなよ、その代り、もうこれまでという時には、器量いっぱいの大声を挙げて、「友様、後生だから頼む!」と叫ぶから、その声を聞くまでは、じっと辛抱して見ているんだよ、もし道庵の口から後生だから頼む! の一言が出ねえうちに、お前が短気を起して、加勢なんぞしようものなら、もうその場限り親分子分の縁を切り、京大阪へも連れて行かねえし、その熊の子なんぞも取りあげてしまうから、よくよく心得ていてもらいてえ。
 念を押して言うものだから、米友も何のちゃらっぽこ[#「ちゃらっぽこ」に傍点]とは思いながらも、何か先生には先生だけの腹があるのだろう、いよいよという時、後生だから頼む! の一言を聞き届けた上で飛び出せばいいのだ、こう考
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