がいいかも知れない。竹の笠と、半合羽《はんがっぱ》と、カルサンと、藁沓《わらぐつ》といったようなものが、取揃えられてあるのを見ると、あれをお借りしようという気になりました。
あれですっかり身ごしらえをして行けば中身は何でもかまやしない、ちょうどあんなふうにして、近在や山方から出て来る娘さんの姿をよく見かける、この辺ではかえって、あんなにして出た方が目につかなくていいと思いました。
まもなく、笠と、合羽と、かるさん[#「かるさん」に傍点]で、町へ下りて行くお雪ちゃんの姿を見ました。
なるほど、こうして行く方がこの辺では目に立たない、笠の中をわざわざ覗《のぞ》いて見ない限り、見咎められるはずはない、また、見咎められたとて必ずしも暗いこともないけれど、この方が安心だと、自分も思い、周囲のうつりもよかったのです。
そうして、無事に、久しぶりに町へ出て見ましたが、焼跡の工事もかなり進んでいる。どこでどう買物をしていいか、ちょっと戸惑いをするが、ほぼ勝手を知った宮川筋を上って行くと、そこに一つの大きな小屋が立っていて、その小屋が全部、公設市場のようになっているのを見ました。
これは、火
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