は、ぜひなくてはならない、例の角行燈《かくあんどん》のほくち箱の中から出て来たものがあります。
「どなたですか」
「はい、わたしですよ、ピグミーでございますよ」
 ああ、ピグミーだ、こんな奴は出て来なくてもいいのである。誰しも出て来ない方を希望するのに拘らず、目の見えない人か、目は見えても眠っている人のところへは、必ずなれなれしく出て来る。
「ピグミーさんですか」
「はい、ピグミーでございます、いつぞやは失礼いたしました、今晩はあなたがまた、これへおいでなさることを知っておりましたから、ちょっと先廻りして、ほくち箱の中へと身を忍ばせてお待ち申しておりましたところです、お寒くもあり、おさびしくもあろうと存じまして、お伽にまいりました、今晩は夜っぴてお話をしようじゃありませんか、あなたもお喋《しゃべ》りがお好きでいらっしゃるが、わたくしだってその気になれば、ずいぶんお相手ができようというものです――今晩はゆっくり話しましょう、夜っぴてお話ししましょう」
「いけません、今晩は、わたしは休むのです」
「そんなことをおっしゃっちゃいけませんよ、ピグミーに恥をかかせるものじゃありません」
「今晩は
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