れ、そうしてここにいる総ての奴等が、この石で圧殺されてしまおうとも、グロテスクの頂天へ穴を明けなかった方が、どのくらい幸福であったか知れないということに、身も魂もわななかされてしまったに相違ないが……
ことに、この下手人の筆頭は、何も知らない好人物の他国者、与八であることの、免《まぬか》れんとしても免れられない運命のほどを、この男のために悲しみ、かの旅行中の暴君のために怖れることは想像にも堪えられないはずなのに……
ここの一同は存外平気で、あとはあとのように相当に修理し、肝腎《かんじん》の悪女様は、手っとり早く元の座に直すというわけにはゆかないから、単に起して、土台石の一つへ立てかけて置き、そうして自分たちは、ほぼ理想通りの石が得られたことの満足で、他のすべてを自分から帳消しにしてしまっているほど好人物揃いでした。
二十六
飛騨の高山も、今日はチラチラと雪が降り出しました。
相応院の一間に、お雪ちゃんは炬燵《こたつ》をこしらえ、金屏風《きんびょうぶ》を立て廻して、そこに所在を求めながら、考えるともなしに考えさせられています。
白骨へやった久助さんも、今日
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