ある屈強なのが十人近くもかかってこじれなかったのを、あの無雑作な動かし方はどうだ。ここへ来て与八の力量の一端が認められたのは、この時が初めてでありましたけれども、不幸にして、それは、徒らに驚異と喝采だけで納まる場合ではありませんでした。
 こうして、与八の手で無雑作に、三つ四つ左右に揺られた石は、もはや抜き取れたと同様の位置になり、それが抽斗《ひきだし》を抜くように抜き出される瞬間に、グッグッと周囲が鳴り出したのは、最初の事情から見れば、あながち無理とは言えなかったのです。
 最初の石の食合せ方が執拗であったところで、それをコジるために、かなり無理をしているところへ、予想外の大力で一度にガタリと埒《らち》があいたものですから、周囲の土石も一層、狼狽《ろうばい》の度が強かったに違いありません。
 与八も飛び退きました、立って舌を捲いていた連中も一時に飛び退きましたから、幸いに人間は怪我をしませんでしたけれども、その石の四方の腰がグタグタに砕けると、塚の頭に立たせ給うグロテスクが、すさまじい権幕で、もんどり打って下へ落ちころがってしまったのです。
 この場合、人間に怪我のなかったことが何よ
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