をするつもりでも、からかってやるつもりでもなく、主膳としては、そのハミ出した肉の一片が、硬いか、やわらかいかを試みてみなければ、この食指が承知しないような慾求に駆られたものですから、全く本能的に、指先がそこへ触れたか、触れないか、自分でさえもわからなかった時に、低能娘がその点は存外鋭敏で、「あら、いやだ」と言われて、はじめて主膳としても、何だ大人げない、という気になったのですが、自分を見上げてながし目に睨んだ低能娘の眼を見て驚きました。何といういやな色っぽい目をしやがる、馬鹿のくせに!
 主膳は、こいつ憎い奴だと思い、よし、その儀ならば、もう少しこっぴどく退治してやろうと怒った時に、
「あっ!」
 今度は主膳が全く圧倒されてしまったので、仕置を仕直してやろうと思っている当の小娘から先手を打たれてしまったのは、返す返すも意外な事でした。
「あっ!」と言ったのは低能娘ではなく、三ツ目入道の神尾主膳で、その時、主膳は屈んでいた低能娘のために、自分の太腿《ふともも》を、いやというほど下から抓《つね》り上げられてしまったのです。
 といったところで、女の子のする力だから、主膳ほどの者が悲鳴を揚げ
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