こへ来て隠れたのですから、そんなことを言わないで、少しの間、隠して置いて頂戴な――という頼みであること言うまでもない。
ほかの子供なら、いくらわからずやでも、いくぶん心得があって、こっちへ来てはならないことを知っている。知らなくても、主人の居間を隠れんぼのグラウンドにするなんていうことの見境はあるのだが、そこに頓着のないところにこの低能さ加減がある。
主膳はそれを知って呆れ返ってしまったから、ツマミ出すわけにもゆかず、沈黙していると、いい気になって低能娘は、主膳の膝と机との間を潜伏天地と心得て、息をこらして突臥《つっぷ》してしまったのです。
全く呆れて、その為すままに任せているよりほかはないが、主膳は自分の傍らにうずくまった低能娘の、身体《からだ》の発育の存外なことを感ぜずにはおられません。自分の膝に接触する温か味から見ても、こいつはもう成人した娘だわい、頭こそ少々低能ではあるが、肉体は出来過ぎるほど出来ている、厄介な奴だと思いました。
そう思って見ると、上の方から三つの眼で爛々《らんらん》と見つめるところの肥った首筋に、髪の毛がほつれている、その首の色がまた乳色をして、ばかに
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