が……」
「かなわない、何しろ大寒小寒《おおさむこさむ》の時は、山から小僧が飛んで来ることになっているのが、反対に里から小僧が飛んで来たのだから、まさに天変地異だね」
「雪の白骨へ今冬は、かなり変った客人が見えないではないが、あんなのは絶品だね」
「絶品だ、全くよく喋るにも驚かされるが、勘のいいのにも度胆を抜かれるよ」
「久助君が来たのを、その足音もしないうちから感づいているのだから、我々なんぞはもう腋《わき》の下の毛穴まで数えられているかも知れない」
「なんだか少し怖いね」
 事実、さしものいかもの[#「いかもの」に傍点]揃いであるらしいこの座の一行も、弁信のことを考えますと、おぞけを振うらしい。
 そうかといって、魑魅魍魎《ちみもうりょう》でないことの証拠には、お喋りこそするけれども、このお喋りには条理、いや、時とすると条理以上の何物かがあるように聞える――そこで、おぞけを振いながら、妖怪変化の類《たぐい》なりと断ずるわけにはゆかないのです。
 そこで、一座が弁信なるものの、正体に全く無気味なもてあましを感じ出した時、中口佐吉が言いました、
「なあに、それほど驚くこともないですね、
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