めにお雪ちゃんが、これへ戻って来ることはよろしくありません――私の方から尋ねて行くまでお待ちなさるように、お申し伝え下さいませ」
「万事承知承知」
「では、その方はそれと一決して、あらためて日課の輪講に移りましょう、当番は……」
「堤君ではないか」
「時に……久助さんもお疲れでしょう、いつもの部屋でお休み下さい、それと品右衛門爺さんも、我々の輪講がはじまりますからお休みなさい」
弁信のことは、行けとも行くなとも誰も言いませんでした。
三
良斎先生の「万葉」、柳水宗匠の「七部集」宗舟画伯の「四条派に就て」というような輪講が一通り終って後の炉辺の余談が、ついに弁信法師の上に落ちて来ました。
「どうです、あの弁信なるものは」
「驚き入ったものですね、あれはまた何という喋《しゃべ》り方です」
「ああなると、手のつけようも、足のつけようもありませんね、さすがの北原君でも交《まぜ》っ返す隙が無いじゃありませんか」
「喋らしたら、しまいまで聞いていなけりゃなりません、そうかといって、喋らせないように警戒しているわけにもいかないし、聞いていても、そう耳ざわりになるわけではない
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