大菩薩峠
弁信の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)草鞋《わらじ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当然|介添《かいぞえ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「りっしんべん+瑾のつくり、320−3]
−−

         一

「おや、まあ、お前は弁信さんじゃありませんか……」
と、草鞋《わらじ》を取る前に、まず呆気《あっけ》にとられたのは久助です。
「はい、弁信でございますよ。久助さん、お変りもありませんでしたか、お雪ちゃんはどうでございます」
「お雪ちゃんも、無事でいるにはいますがね……」
「なんにしても結構と申さねばなりません、本来ならばあの子は、この白骨へ骨を埋める人でございましたが、それでも御方便に、助かるだけは助かりましたようでございます。お雪ちゃんは、当然ここで死なねばならぬ運命を遁《のが》れて、とにもかくにも、無事にこの白骨を立ち出でたのは果報でございました。誰も知らないお雪ちゃん自身の善根が、
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