るのが唐の芋
尻尾を切るのが八つ頭
向うのおばさん
ちょっとおいで
お芋の煮ころばし
お茶上れ……
[#ここで字下げ終わり]
二十
その翌日、主膳が外出した後の居間へ、お絹が入って来ました。
今日は在宅のはずだが、おとなしいのは、書に凝《こ》っているからだろうと、来て見るともういません。よって、お絹は手持無沙汰に、何かと室内を取片附けてみるうちに、床の間のお花がしなびているのを目につけて、これはひとつ、活《い》け換えて置かねばならぬと考えたのです。
わざわざ使を花屋まで走らすまでのことはなし、庭を探して何か有合せのもので、趣向を凝らそうと思いました。
主膳の書と違って、お絹の花は素人芸《しろうとげい》ではなく、これで充分食べて行かれる腕はあるのですが、近来、めっきり腕を遊ばせて置いたから、今日はひとつ、うんと腕によりをかけてやろうという気になりました。
そこで庭へ下りて、残菊にしようか、柳にしようか、それとも冬至梅か、万年青《おもと》かなんぞと、あちらこちらをあさった揚句、結局、万年青が無事で、そうして豊富でよかろうというような選定から、座敷へ戻ってしきりに鋏《はさみ》を入れているうちに、これもいつしか三昧《さんまい》という気持に返って、お花の会の主席を取るような意気込みにもなり、ああでもない、こうでもない、この葉ぶりも面白くない、ではもう一ぺん庭をあさって、おもしろいのを見つけ出して来ようという気になっていると、折しも、前の庭の垣の外、いつぞや子供たちが凧《たこ》をあげて、ひっからませたあたりのところで、しきりに呼び声がしました。
最初のうちは、豆腐屋か、御用聞が、近所の台所を叩いているのだろうと気にもとめなかったが、そうでもなく、その声はこの屋敷の廻りだけをうろつきながら、当てもなく呼びかけているような声でありました。
「四谷の大番町様のお屋敷は、この辺でございましょうか」
根岸くんだりへ来て、四谷とか、番町様とか言ってたずねている。お絹は頓馬《とんま》なたずね方をする御用聞もあるものだなと聞き流しながら、鋏を持って再び庭へ下りて来ると、
「もし、ちょっと承りとうございますが、この辺に四谷の大番町様のお下屋敷がございますまいか」
やっぱりぐれている、ここは呉竹《くれたけ》の根岸の里の御行《おぎょう》の松、番町だの、四谷だの、
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