わせているように、白雲に想像されてならない。
 大言壮語をする奴は多いけれども、たった一人になっても、本当に謀叛《むほん》のできる奴はいくらもあるものではない。
 大勢《たいせい》の順逆は論外として、とにかくこの男は、本当に謀叛をやれる奴だ、謀叛人の卵だ、と白雲が、同行しながら、雲井なにがし[#「なにがし」に傍点]に向って舌を捲きました。
 道は山路をとって磐城平《いわきだいら》へ通ずるところ。

         二十七

 煙にまかれて、雨戸をしめきったお雪ちゃんは、次の間へ飛んで出て、
「久助さん、久助さん、火事ですよ」
と言い捨てて、そのまま、あわただしく二階へかけ上ってしまい、
「先生、火事でございます、早くお仕度なさいまし」
 言われるまでもなく、この時、竜之助はもう心得て、身のまわりのものを掻《か》き寄せていたところでした。
「お雪ちゃん、気をつけるといい、火事の時は、明るい方へ逃げないで、暗い方へ逃げるものです」
「先生、早くなさいまし」
 お雪ちゃんは、竜之助の手を取って引立てようとしたが、人を急《せ》き立てる自分こそかえって、あわてていて、ねまき一つのまんまで騒いで
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