です。そこで、よって、彼を世界の第一流とは言えるかも知れないが、日本を代表しての古今独歩とは推《お》し難い……日本を代表する以上は、そのすべてが日本化されて、そうして独自の境に立って、天下を睥睨《へいげい》するという渾成《こんせい》と、気魄《きはく》が無ければならないのです。そうして、優にそのすべてが備わっているのは、狩野永徳がただ一人です。永徳を日本第一、古今独歩と私が推称するのは、大体そんなような理由ですが、もう少し、それを分析しないと、いくら素人《しろうと》でも、君たちにわかるまいと思うから……」
 ここで、また酒をとって飲みました。主人ともう一人の客は、あながち、白雲の気焔を否《いな》まずに聞いているから、白雲が続けました、
「永徳は元信の孫です。元信は御承知の通り古法眼《こほうげん》で、この人もまた、ある点では永徳以上のものを持っていました。いったい狩野家には、代々豪傑が現われたこと不思議と思われるばかりですが、古法眼を祖父として、松栄を父として生れた永徳が、生れながら、すでに名匠の血を持ち、むつきの間から丹青の中に人となり、後年大成すべき予備と、練熟とは、若冠のうちに片づけ
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