人に親しく逢おうとしました。無論貧乏だから、買いたいと思うものも買えず、こうして乞食同様にしているから、見たいと願うものも見せてくれないものもあるが、その謙遜と、熱心とだけは、変りませんよ。陸前の松島まで永徳を見に行こうとするのも、必ずしも物好きと、酔興ばかりではありませんね――この骨のこわい頭を下げてはならぬ時と、下げねばならぬ時とは、これでも相当に心得ているつもりですよ」
二十三
白雲は傍若無人に語りつづけました、
「狩野永徳が日本一の画家です、古今独歩の名人です、本当に日本の絵というものを代表するのは、永徳のほかにありません。無いとは言えないが、あっても、それは部分的でなければ、条件つきです。ところが、永徳に限って、これが日本第一の、日本の美術の代表の画人だと、憚《はばか》りなく言うことができます」
「永徳のドノ点がエライのです、どういう理由が日本一になるのです」
「それを言うには……君たちを教育する意味に於ても、一通り日本の絵画史を頭に入れて置いてもらわなければならないが、そんなことをしている暇はないから、手っとり早く言えばですね、まず、ずっと上代では、
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