しても、古永徳が日本一の画人、古今独歩の人ということは、まだ独断じゃありますまいか。巨勢《こせ》の金岡《かなおか》もあります、光長も、信実《のぶざね》もあります、土佐もあります、雪舟《せっしゅう》、周文、三|阿弥《あみ》、それから狩野家にも古法眼《こほうげん》があります、その後に於ても探幽があり、応挙があり……」
「そりゃ、もとより異論もあるだろう、永徳の日本一は、秀吉の日本一のような相場にはなっていないが、拙者は狩野永徳が日本に於て最大の画家であり、古今独歩の名人であることを信じて疑いません――まあ、お聴きなさい、拙者だって、意地でそんなことを言うわけではありません、今日まで、拙者の見たところ、測ったところを論拠として、それを言うのです。地図の測量では、下総の佐原の伊能忠敬が名人ですが、拙者といえども、自分の職とする道に於ては、かなり忠実綿密なつもりです、人間はこの通りお粗末だけれども、せめて古人を見ることの謙遜と、忠実とだけでは、人後に落ちないようにと心がけてはいます。ですから、拙者は今日まで、いやしくも名画と聞き、名人と聞けば、できるだけの手数を尽して、その絵を見せてもらい、その
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