二十二
たとえば……と言って白雲が膝を組み直した時に、雲井なにがし[#「なにがし」に傍点]が問いかけました、
「その通り、恥かしながら、我々も美術や絵画のことにかけては盲目なのだ、それは店頭にかけた絵草紙と、応挙の描いたもの――というような格段は別だが、大家の位附けになると、どれも同じように見えて、そのエラサ加減に甲乙をつけるだけの眼識は無い。それは一つは不幸にしてそういうことを学んでいる暇が無かったのだ。そこで、端的にここで、君について学びたいのは、日本一の画家――つまり、絵の方で古今独歩の名人というは、まず誰なのだね」
それを聞いて白雲は、心得たりというような見得で、雲井なにがし[#「なにがし」に傍点]の面《おもて》をながめ、
「素人《しろうと》は、そういうことを聞きたがる。子供が、義経と清正はどっちがキツイ、と言うような程度のものだ。日本一というものは、桃太郎の旗印のように、簡単明瞭にくっつけられるわけのものではないが、美術鑑識の入門としては、さもありそうな質問で、それを軽蔑するわけにはいかないのだ。また拙者もこれで、その道で衣食する職責上としても、素人の
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