ければ危険のありそうなはずがない、万一危険がありとすれば、帆をかけて海に避けるまでのことだ……ということを駒井が、七兵衛の得心のゆくまで説いて聞かせました。
駒井としては、その辺に十分の自信を持っていて、帆前の用意まで怠《おこた》りはないのだが、それにしても心にかかるのは燃料のことで、遠洋の航海をするのに、その燃料の貯蔵と、補給とには、念に念を入れねばならぬと考えているのです。
しかし、それは石巻へ着いてからの研究でも間に合う。それと、もう一つは、結局の目的地のこと……これはきまったような、きまらないような現在ではあるが、きめて置いて、かえって失望するようなことはないか。きめないで置いて、かえって理想に近い新陸地を発見し、そこに水入らずの一王国か、或いは民主国か知れないが、そういうものの種を蒔《ま》いてみることは、また男児の快心事ではないか。
この点に於て、駒井の近況は、必ずしも冷静な科学者でも、緻密《ちみつ》な建造家でもなく、一種のロビンソン的空想家となっていないではない。そこでかなり正確な数理と、着実とを以て、諄々《じゅんじゅん》と話しつつあるにかかわらず、七兵衛の頭におのず
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