ヲツケテ謀叛《むほん》ノ志アルコト分明ナリ、ヒソカニ軍艦ヲ製造シ大砲ヲ鋳造シテ毛唐ノ侵入ヲ待チ、事ヲ挙ゲテ、ワガ神国ヲ禽獣《きんじう》ノ徒ニ向ツテ奴隷トナサンコトヲ企ツ、言語道断ノ次第ナリ、シカノミナラズ、毛唐ノ無頼漢ヲ雇ヒテ、善良ナル村人ノ財物ヲ剽掠《へうりやく》セシメ、婦女ヲ犯サシメ、切支丹ヲ流行シ、禽獣ノ行ヒヲススメテ改メシメザルハ、一ニソノ方ノ責ナリ、ヨツテ近日中、汝トソノ一味ノ者ニ向ツテ天誅ヲ加ヘ、世ノミセシメトナスベシ、覚悟セヨ」
[#ここで字下げ終わり]
 こういう文句が、かなり達筆に認められてあるのを、駒井は読み且つ見せて、七兵衛に向って言いました、
「ごらんなさい、文章は体をなさないものだが、文字は、なかなかよく書いてあります、この辺の浦の漁師たちなどに書ける文字ではないのです」
「神主様かなにか、お書きになったのでございますか」
「神主様と限ったものではあるまいが、こういう思想を煽《あお》って、無智の人民をけしかける者が志士といって、今の世には到るところに充満している」
「怪《け》しからんことじゃありませんか、そんな奴をひとつ、御退治なすっちゃあ、いかがでございます
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