のです。それが、底知れずに犯されて行く現場を見たいのです。
偶然にそれを見ることができれば幸い、そうでない限りは、自分から――自分といっても、眼という器官だけのそれ自身では、自由行動の能力が無いから、とりあえず自分だけの持てる能力を極度に誘導発揚して、その心をそそのかし、そうしてこの四肢五体の主人公を動かして、退引ならぬ現状を作らせ――そうしておいて自分は一段高いところにいて、飽くまでその現状を凝視することを、むしろ必須の食物ででもあるかのように心得ているらしい。
八十七
その目的物を見ようとする途中の道草としての、この女化け物に、神尾が、かりそめの興味を呼び起してみると、梯子酒のように、その残忍性が募って来るのは、この男の持前です。
パックリと口をあいた真中の眼が、力持のおせいというものが有するアブノーマルな肉体に向って、貪看《どんかん》を起しはじめたのが運の尽きでした。
「おい、お前、女角力《おんなずもう》というものを見たか」
「え、女角力でございますって」
「見たかじゃない、お前も、前生はその女角力で鳴らした仲間じゃないか」
「いいえ、角力はやりません
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