りに、厳重な柵をお作りになってはいかがかと存じます、わたくしもお手伝いをいたしますから」
「用心にしくはないが、まあ、そうするまでには及ぶまい」
「しかし、うまくおだてられているんでございますから、調子によっては、何をしでかさないものでもございません。実は只今もああして、押しかけて来て、なんでも一気にこの御番所へ荒《あば》れこんで、火をつけてしまえ、ということだったそうでございますが、なかに、この御番所には大筒《おおづつ》がある、大筒をブッ放されてはたまらない、ということを言う者がございまして、そこで、あんな面当《つらあ》てだけにとどめたということでございますから、今後、また度々《たびたび》いたずらをするにきまっております、そうしますと、時のハズミで、ワーッとこれへ乱入して来ない限りはございません。そこで、塀なり、柵なりをかけて置けば、そこで必ず多少の遠慮をするにきまっておりまする――そうしているうちに、鉄砲の音の一つもさせてやれば、怖れてもう寄りつきは致しますまい、こちらから征伐も大人げのうございますが、籠城の用心だけはしておきませんと……それには、搦手《からめて》は大丈夫でございま
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