召と、それから別にお小遣《こづかい》が若干……」
「たわごとを言うな、それ、行くぞ」
神尾主膳は、思い切って金助の横っ面を、ピシャリと食《くら》わしたが、
「あっ!」
その途端、金助は仰山に後ろへひっくり返る。平手で横っ面をひっぱたかれたにしては、手当りが少し変だと思うも道理、金助が横ッ倒れに倒れた周囲には、山吹色の木の葉のようなものが、あたりまばゆく散乱していたから、眼の色を変えて起き直り、
「こうおいでなさるだろうと思いました、骨身を砕くだけのものは、たしかにあると、こう信じたものでげすから……へ、へ、へ、金助の眼力《がんりき》あやまたず」
金公は驚悦して、その山吹色の、木の葉のようなものをかき集めにかかる。
八十四
山吹色の、木の葉のようなものを懐ろへ入れて、すましこんだ金助に向い、
「金公、おれは今日、日本橋で変な曝《さら》し物《もの》を見て、胸が悪くってたまらないのだ」
と言って、神尾主膳は坊主の生曝しのことを話し、
「全く、イヤな物を見せられたが、坊主の生曝しというやつはまた痛快なものだ。いい気味だと思って、わざわざ駕籠《かご》から下りて穴のあ
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