する義務として、わざわざ注意して、頼みもしないのに進行を止めて、垂《たれ》まで上げて見せようとする。それにぜひなく人垣の隙間から主膳が見ると、苦りきってしまいました。
 生曝《いきざら》しの坊主が数珠《じゅず》つなぎになって曝されている。

         八十二

 それを見ると、苦りきった主膳は、いったん、舌打ちをしてみたが、何と思ったか、急に兎頭巾《うさぎずきん》を取り出すと、それを自分の頭にすっぽりかぶって、
「坊主の生曝しは近ごろ珍《ちん》だ」
と言って、乗物から、のそのそと出て来ました。
「御覧になりますかねえ」
 駕籠屋どもは、公設の曝し物の前を乗打ちをさせては、乗主に申しわけがないというお義理から、ちょっと進行を止めてみたのが、乗主は意外にも、それに乗り気になって、のこのこと駕籠を出たものだから、少し案外に思っていると、主膳はズカズカと人混みの中へ行って、その坊主の生曝しを、兎頭巾の中からじっと見据えてしまいました。
「旦那様――」
「よろしい、貴様たちは、もう勝手に帰れ」
「築地の方は、どういたしましょう」
「少し寄り道をして行くから、貴様たちはこれで帰れ」
 主膳
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