な見得をしたがる男で、一応見得を切っておいて、それから左の手を懐中へ入れて、ふところから胴巻のようなものを引き出した形までが、いちいち芝居がかりで、引き出してから押しいただき、「有難え、かたじけねえ」と来るところらしいが、そんなセリフは言わず、胴巻のようなものの中からあやなして、何を取り出したかと見れば、竹の皮包は少々色消しです。
でも、包みの中を開いて見るまでは、舞台に穴を明けるほどの色消しにもならなかったが、やっぱり片手をあやなして、竹の皮包をいいあんばいに開いて、中身をパックリと自分の頤《おとがい》の上へもって行ったところを見ると、色男も食い気に廻って、さっぱり栄《は》えない。いい男が、いいかげん気取ったしな[#「しな」に傍点]をして、懐中から取り出した一物が何かと見れば、それはつけ焼きの握飯《むすび》であって、それをその男が二つばかり、もろにかじってしまいました。
これががんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵といって名代(?)のやくざです。
いつのまに、このやくざ野郎、こんなところまで来やがった?
先日来は、尾張名古屋の城のところで、金の鯱《しゃちほこ》を横眼に睨《にら
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