した。
 だが、朝の食事のチグハグを見ると、もうそんな気分ではいられないと思いました。いつまでも、火事見舞の給与品に甘んじているわけにはゆかないことを思うと、一刻も早く、この急を救う道を考えねばなりません。
 それは今に始まったことではなく、初めから考え続けていたのですが、どうしても「遠くの親類よりは近くの他人」となって、その近くの他人のうち、まず、こんなことを相談してみようという相手は、白骨にいた宿の人たち、わけて、懇意にしていた北原さんに越したことはない。あの人に手紙を書いて、久助さんに持って行ってもらおう。白骨まで少し無理かも知れないが、あの人の足ならば一日で行ける――
 お雪ちゃんは、チグハグな朝飯を済ますと、座敷の一隅の机のところに行って、北原賢次への手紙を書きはじめたものです。
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「北原さん、白骨を立つ時はしみじみ御挨拶も申し上げないで、ほんとに済まないことだと存じております。けれども、それにはそれだけの事情がありまして、病人やなんぞの好みもあるものですから、皆さんには御挨拶無しで出て参りました。さだめて皆さんは、雪は夜逃げをしたとか、駈落《かけおち》
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