鮮かな火焔の色と、スッテン童子の髪の毛とを思い出しました。
 マドロス君も、いけないにはいけないが、焼き殺すというのはヒドい。焼き殺されるのは、全くかわいそうだ……

         五

 お嬢さんに対して働いた暴行は、憎いには憎いが、そうかといって、焼き殺さねばならぬほどに憎いとは思えない。
 現に、再三、その暴行を蒙《こうむ》ったお嬢様自身すらが、それを許しているではないか。
 駒井の殿様がああして、物置へマドロス君を抛《ほう》り込んで置いたのは、焼き殺しておしまいなさるつもりではない。再三のことで、あまりといえば許しておけないから、当座の懲《こら》しめのために相違ないのを、大勢がやって来て、担ぎ出し、それを天神山で焼き殺すということになっている。
 村民たちに、そんな刑罰を行う権利が与えられているのか。タカが、マドロス君が飢《う》えに迫って、お櫃《ひつ》をかっぱらったとか、鶏を盗んだとかいう程度が、村民の蒙っていたすべての被害ではないか。それに向って私刑を加える――十や十五の叩き放しならまだしも、焼き殺してしまうというのは、それはあんまり酷《ひど》いや――
 いやいや、マドロ
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