らの怪物は、それに調子を合わせるだけの愛嬌《あいきょう》を持ち合わせておりませんでした。それのみならず、その笑いかけたのを、浅ましがっておっかぶせてやるだけの慈悲心も、持ち合わせていないようでした。
ですから、こうまでして、死人がわざわざ愛嬌を見せても、この怪物に対しては、全く糠《ぬか》に釘のようなもので、お化けがかえってテレきってしまうのです。
三分五厘子は吾人に教えて言う、
あるところに、一人ののら[#「のら」に傍点]息子があって、親爺《おやじ》ももてあましたが、望み通りの美しい嫁さんを貰ってやったら、ばったり放蕩《ほうとう》がやんで、嫁さんばっかりを可愛がっている。嫁さんも美しくもあり、情愛もあって、若夫婦極めて円満なのは結構至極だが、ただ一つ解《げ》せないことは、この花嫁さんが、毎夜毎夜、夜更けになると、婿さんの寝息をうかがっては、そっと抜け出して、いずれへか消え失せる、その様、ちょうど、三つ違いの兄さんの女房のするのと同じようなことをする。嫉《や》けてたまらない婿さんが、或る夜、そのあとを尾行して行って見ると、寺の墓地へ行った。あろうことか、その花嫁は墓地へ行って、新
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