、茂太郎は、声も、身体《からだ》も、震え上ってしまいました。
「マドロスが、焼かれているのかも知れない、たしかにそうだ、そんなような気がしてならない、そうだとすれば大変だ!」
 ほとんど為《な》さん術《すべ》を知らないほどに動顛《どうてん》したらしい。
 そこで、すっかり、空想も、幻想も、打ちこわされて、失神に近いほどの戦慄《せんりつ》と、恐怖を、如何《いかん》ともすることができないらしい。
 というのは、今、あのマドロスが、村民の無頼漢の手に捕われている、そうして天神山へ連れて行かれて、今日明日のうちに焼き殺してしまうが、どうだいという、かけ合いがあったとか、なかったとか聞いていたが、それが本当であったか。
 昨今、駒井の殿様を中心とする、この海辺の世界では、造船は着々と進行する、動力の研究までが目鼻がついてくる、働く人はみな殿様に心服している、やがて船が完成すれば、それに乗って行くべき人の人選も、ようやく定まりつつあるの時に、その周囲から、ようやく圧迫が出て来たことの形勢が、うすうすこの茂太郎にもわかっているのでした。
 最初は、充分の好意と、好奇とを持って、駒井の新事業に便宜を計
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