のうちの、どの村へという当てはないのでした。老人も、それをたしかめようとはしないが、
「で、あの白水の滝のあるところまでは、これからどのくらいありますか、あそこまで行ってみたいと思います」
「それはいけません」
「どうしてですか、道がないのですか」
「道はあります、道はありますけれども、女は行ってならないことになっておりますのでございますよ」
「それは、またどうしてでしょうか」
「あそこに千代《ちよ》ヶ坂《さか》というのがありましてな、八石平《はっこくだいら》からあちらは、女は忌《い》んで、通ってはならぬことになっているのを、千代という若い女の方が強《し》いて通りましたところ、翌日になると、その坂の木の枝に、女の五体がバラバラになって、かけられておりましたということで、それから、あれを千代ヶ坂と名附け、あの辺は決して女の方は近寄れないことになっております」
「まあ、それは本当ですか」
「それは古来の言い伝えでございますけれども、わしらが覚えてからも一つございました、ある坊さんが、あの温泉で眼を癒《なお》そうとしまして、尼さんを一人つれて参りましたが、そのせいでしたかどうでしたか、急に雨
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