のゴシップだのというものが、遠慮なく飛び出して、選挙のことも、改定のことも閑却され、ここ暫《しばら》く、創作の興味が、旧作の復習に圧倒された形です。
そうして、この番附面の極印、やはり銀杏加藤の奥方が日下開山《ひのしたかいさん》の地位――その点だけにはすべての姦《かしま》しさを沈黙させ、問題はそれ以下に於て沸騰する。ことに今晩、問題に上ったのは、大抵限られたる範囲の武家屋敷の間にのみ偏重されがちであったのに、この旧番附は、市井郊外までかなり公平に割振られてあることが、よけい、一座に批評の余地を与えたり、知識の範囲を広めたりするものですから、一旦しらけ渡った席を、この一物がまた熱狂的にしてしまいました。
ここは動かないところでしょうが、これはどうか知ら、あの方をこんなところへ持って来るということはありません、選者のおべっか[#「おべっか」に傍点]でしょう、それにあの方がこんなに下げられていてはおかわいそうよ、このお方わたしは存じ上げません、江戸表においで? え、おなくなりになりましたか、それはそれは――というようなあげつらいから急に声を落して、まあ、春花楼のお鯉がこんなところに――西
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