話をしているのです、いい坊ちゃんですよ」
「ははあ、そのお父さんという人が、房州に住んでいるのかね、房州で何をしているのです」
「何をしていますかね」
「それには事情がありそうだ――ではね与八さん」
 この時、七兵衛が膝を立てました。
「はい」
「わしは、お前さんとこのお松さんはよく知っているのだがね、わけがあって、御無沙汰《ごぶさた》をしている。明日の朝、わしがお松さんに会いに行くからってね、そう言って置いて下さい」
「はい、そう言いましょう、お前さんはどなたでしたかね」
「わしは、裏宿の七兵衛といえばわかります、ないしょで言って下さい、わしの名は、なるべく小さい声でお松さんの耳へ入れて下さいよ」
「はい」
 ここで、七兵衛は再び斧を取り上げて、薪のこなしにとりかかりました。
 与八は、犬を引きつれて、帰り路に向います。この時まで、七兵衛を見まもっていたムク犬は、全く無事に与八について引上げる。その人と犬との後ろ影を、七兵衛は、いったん取り上げた斧を下におろして、じっとながめていること久しいものでありました。

         六十二

 果して、その翌朝、まだ暗いうちに七兵衛が、
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