係から、その債務を果すためとか、申しわけのためとか、そんな用向で、わざわざ再び甲州の地を踏みに来たものとも思われません。打ちとけた話を聞いてみると、それもこれもひっくるめて、こんなような次第です。
切支丹大魔術師の一世一代を名残《なご》りとして興行界から引退したお角、引退はしたけれども、世間もこの業師《わざし》を捨てて置きたがらないし、自分も、どうかすると、腕がむずむずすることのあるのはやむを得ません。
だが、見込みのつかない事には乗らず、見込みのつく事は人に知恵を授けてやって自分は乗出さずに、うまく舵《かじ》を取っていたのが、今度はひとつ身体《からだ》を乗出さなければならなくなった、というよりは、自分から進んで出かけてみようという気になったところのものがあるのです。
それは、この甲府が目的の地ではありませんでした。
一蓮寺のあのいきさつは、今ではもう夢のあとです。お角ほどの江戸ッ児が、あの時の燃えのこりを根に持って、灰下をせせりに来るという、了見はありますまい。甲州へ来るのが目的でなく、その目的のところは、ずっと離れた尾張の名古屋の城下ということでありました。
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