うともなかろうとも、身を以て証拠立てようという気にもならない。丸山勇仙も主張はしてみたけれども、他の二人ともに気乗りのしないので、強《し》いて下ってみようとの冒険心もないらしい。
 そこで三人は、三すくみのような形になって立っていると、丸山勇仙が再び、最初のようなけたたましい叫びを立て、
「人が登って来る!」
 実証のまだ甚だあいまいであったこの岩角の通路を、下から確実に上って来る人がある。その白衣《びゃくえ》を三人ともに認めないわけにはゆかない。
 勝ち誇った勇仙は、
「それ見ろ――」
「うーむ」
 仏頂寺がテレ隠しに、非常に力《りき》んでみせました。
 ほとんど直角に近いほどの崖路。兵馬も、勇仙も、ひとたびは人間臭いと見て、二度目は自信を持てなかったその岩角の斜めについた足がかりを、のっしのっしと上り来《きた》る者のあることは、仏頂寺といえどももう争うことはできなかったが、それでも負惜しみに、
「人間じゃあるめえ、狸だろう」
 仏頂寺は悪態をつきました。
「どうだどうだ、仏頂寺、君は鼻も利《き》かないと思ったら、眼もいけないのかえ、人間と狸の見さかいが無くなったのかい、もう長いこと
前へ 次へ
全514ページ中163ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング