風の外へ急に突きやったらしい、櫛箱《くしばこ》、耳盥《みみだらい》、そんなようなものが眼に触れると、北原はなんだか、ここで今まで、おとわ稲川もどきの世話場が、演ぜられていたような気配も想像されないではありません。
 なんとなく、空気が尋常でありませんものですから、さすがの北原も、どちらへどう御挨拶をはじめていいかわからないで、暫くは二つの間へ等分に眼をくれながら、
「村田君を誘って、二人で押しかけて参りました」
「ほんとうによくおいで下さいました、約束をお忘れなく」
 この時分、お雪ちゃんもようやく本心に返りかけたらしく、
「さあ、どうぞ、こちらへ」
 改まって北原と、村田を案内して、
「お炬燵へいらっしゃいましな、今、お火をいただいて来たばかりですから、その方がよろしうございます」
「そうですか、あの、お雪ちゃん、お邪魔をしていても、御病人におさわりはございませんか」
「え、かまいませんとも」
「御挨拶を申し上げたいと思いますが……」
「あ、そうですか」
 お雪はここでもまた、狼狽ぶりを示さずにはおられないらしい。
 そこで、北原も、少し訪問のバツが悪かったな、と思わせられないわけに
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