には恐れ入ったが、それをお前に任せることは、お前をまたあのマドロスの運命にすることだ、いわば一つで済む犠牲を、二つにするようなものだ」
「わたくしの方は、どうなりましょうとも、決して殿様に御迷惑をおかけ申すようなことは致しません、もしおまかせがなければ、私も乗りかかった船でございますから、私の一了見で、ひとつ出かけてみたいと思いますから、見ぬふりをあそばしていただきたいものでございます」
そう言われて、駒井は全くこたえたように七兵衛の面《かお》に眼を注ぎました。
不思議の男だ。見かけはどう見直しても質朴《しつぼく》なお百姓に過ぎないこの男、義気だか、客気だか分らないが、飛んで火に入る勇気を十二分に持ち合わせている。
満身これ胆とはこういう男をいうのかしら……今こそお百姓の風をしているが、若い時分には長脇差の柄《つか》を握って、血の雨の中をくぐり歩いた男かも知れない。
ともかくも妙な場合に来合わせたものだ。
こういう男に限って、行くなと言ってもきっと行く、これはともかく任せてみるよりほかに仕方がない、と心を決めました。
六十六
清洲の山吹御殿の銀杏《ぎんなん》加藤の奥方の居間へ、不意に一人の珍客が訪れました。
「これはまあお珍しい、梶川さん、ようこそ」
と、例の居間で奥方から笑顔で迎えられたのは、この間岡崎市外の街道で、友人のために人を討ち果し、そして、お角の駕籠《かご》にあいのりして、鳴海の宿まで送られた美少年、梶川与之助でありました。
「これは奥方、不意に御静居をお驚かせ申して相済みません、伊津丸殿《いつまるどの》はおいででございますか」
「はい、伊津丸もおるにはおりますが、もう永いこと患《わずら》って、病の床に就いておりまする」
「それはそれは、存じませぬ事ゆえ、お見舞も致しませんで失礼いたしました」
「こちらへ引籠《ひきこも》りましてからは、どなたへもお知らせを致しませぬ、諸方からお見舞を頂くことをかえって恐れておりました」
「それにしても、同じく柳生殿の道場通いを致しました私にだけは、お知らせ下さらないことを恨みに存じます」
「そのことは何とも申しわけがござりませぬ、あれも常にあなたのことをお噂《うわさ》しておりましたから、今日おいでになったことを、どのくらい喜びますか」
「それでは、これから御病床へお見舞に上ってよろしうご
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