見れば百花爛漫の園となってしまったような有様ですから、暫く米友は、夢の中の夢ではないかとさえいぶかりました。
仰天して見ると、あたりこそ花を振りまいたような陽気ですけれど、仰いで見るところの稚児桜は、寝込んだ以前に見たのと、少しも変りません。
枝が老女の髪のようにおどろに垂れて、病葉が欠歯のように疎《まば》らについているを見ると、彼は急に狼狽《ろうばい》をはじめました。
「いけねえ、つい知らずに一寝入りやらかしちゃった」
狼狽してみたが、前も後ろもめまぐるしいばかりの踊り手で、その後ろはまた見物の人だかりで垣根を造られている。
そこで、米友は、例の杖槍《つえやり》と、荷物に手を触れてみたが、これには異状がありません。
本来、こうしたあわてぶりは、米友自身だけで単独に見せられると、かなり人目を惹《ひ》くのですが、この場合、誰しもひとり、このグロテスクに注目する者のなかったのは、集まっている程の者が皆、踊りに目を取られていたからです。
けれど、たまに存在としての米友の狼狽ぶりに注意を向けたものはあっても、多分、これはこの踊りの女連の弁当担ぎか、下足番の小冠者に過ぎまいと見ただけのものです。
そこで、米友は、誰のなんらの怪しみにもでくわさずして、手早く荷物を取って肩にかけ、杖槍を拾い取って、飛び立ったが、さて、行かんとする周囲は、踊り連の妙《たえ》なる手ぶりで、蟻も通わせぬようになっているから、さすがの米友も、その一方を突破するに当惑しました。
手を放して、めぐっていた踊りの連中が、この時は、また手をつなぎ合って、ぐるぐるめぐりを始めたから、相手がこの連中であるだけに、米友としても、鉄砲玉のようにその一角を突き破って通ることに、いささか躊躇《ちゅうちょ》を感じました。しかしながら、その一角を突き破らぬ限りには決して、この囲みを解いて、自分の身を解放することができないと考え、そこで思いきって、突破にかかろうとしたが、さてまたそこで、いずれあやめと引きぞわずろう、というわけでもあるまいが、どこぞに突破口を求むれば、必ずその一角が犠牲に供される。米友としては、この踊りの連中のいずれに対しても、特別に信用と贔屓《ひいき》とを感じているわけではない。実際、こういうふうに、まんべんなく緊張して、いずれもいい気持になって踊っている時には、特にここを破ろうとの破綻《はたん
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