ところがね、江戸へ連れて行かれて帰されなけりゃ、たいてい運命の程はきまっているよ」
「どうきまっているの」
「つぶされて、食べられたのさ」
「誰に……」
「誰に食べられたか知れねえが、人間に食べられてしまったのさ」
「憎い人間だなあ、誰があの牛を食やがったんだ」
「御用だから、仕方がないよ」
 チュガ公の母親が、乳を取られに江戸へ引いて行かれて、そのまま帰されないのは、乳だけの御用では済まなかった証拠である、と言って、その他の多くを語らない。
 それと同時にこのチュガ公が、フラフラ歩きをするようになったのだ、と語り聞かされました。

         十

 夕飯前、茂太郎は、番兵さんについて、牧場の中を一めぐりして歩きました。
 茂太郎のおなじみは、チュガ公のみではありません。
 チュガ公は、名附親としての浅からぬ因縁《いんねん》があるにはあるが、その当時からここで茂太郎と知合いになっている動物は――茂太郎が来なくなってから後に生れた動物はいざ知らず、その以前からの馴染《なじみ》は、早くも茂太郎の訪れを見て宙を飛んで集まって来ました。あるものは多少遠慮して遠くから、しげしげと茂太郎の
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