言を吐いて海人を侮慢《ぶまん》することもあるが、その自慢も毒がないから、笑いに落つるだけのものである。
 そんなようなわけで、内外共に和気すこぶる藹々《あいあい》たるところ、故障が起ったのは、思わぬところに隠れたる気流があるものです。
 それはまず、浦の坊さんたちから故障が起りました。
 難船を引揚げるからには、難にあってさまよう霊魂のために、一片の回向供養《えこうくよう》を捧げて、それから仕事にかかるのが冥利《みょうり》だという申し出がありましたのです。
 それについで第二の故障は、神主さんたちから出ました。
 とつくにのふねの、わがわたつみにしずめるをなん、すくわんとするには、たなつもの、はたつものそなえて、かみはらいにはらいまつりて――後、その作業にかかるが礼儀だと申し出がありました。
 この二つの故障は、駒井甚三郎が言下に受入れて、では作業の第二日を全部、難船の施餓鬼《せがき》と、不浄のはらいとに用いようということになり、そこで直ちに、明日は施餓鬼と祓浄《はらいきよ》めとの触れが廻ると、皆々、一年一度の祭礼にでもとりかかるの意気込みでその用意にかかりました。
 その翌日、急ごし
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