勢いで、高崎藩の陣屋へ馳《は》せつけた日には、ただでは済むまい、火花が散るか散らないかは先方の出よう一つであるが、どのみち、ただでは済むまいと見てあるうち、幸か不幸か、先刻遣わした使者の者が二人、きわどいところで、ばったりと本隊にでっくわしたものです。
「どうした、エ、何をしていたのだ君たちは」
 組頭は、充分の怒気を頭からあびせかけると、二人の使者は、さっぱり張合いがなく、
「いやどうも、少々とまどいを致して、力抜けの体《てい》でございました、それがため復命が遅れて申しわけがござりませぬ、万事はあの旗印を御覧下さるとわかります」
 彼等は旗印を指さしたが、その旗印こそ不審千万なので――そこで追いかけて彼等が説明していうことには、
「御覧下さい――あれはお勘定奉行の諒解《りょうかい》の下《もと》にやっている仕事でございます、しかも作業の発頭人《ほっとうにん》は、もとの甲府勤番支配駒井能登守殿であるらしいことが、意外千万の儀でございました」
 それを聞いて、組頭の面の上に、かなり狼狽《ろうばい》の色が現われました。
「ははあ……」
 これも拍子抜けの体《てい》で、改めて、翩翻《へんぽん》
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