器械をかついで歩み行く、つまり軍艦奉行の手の者が、海岸検分の職を行うべく、この地点に上陸したものでしょう。
ところで、とある小高い岩の上へ来て、組頭の一人が遠眼鏡をかざした時に、黒灰浦の引揚作業の大景気を眼前に見ました。
それは肉眼でも見えるほどの距離を、かねて地勢をそらんじているところではあるし、その群集と、群集の中での作業、これから何事に取りかかろうとするのだか、職掌柄それを眼下に見て取ってしまったから、組頭の顔の色が変りました。
不興極まる気色《けしき》を以て、遠眼鏡を外《はず》し、部下の者を顧みて、
「おい、あれは何だ」
と一人に言いました。
「左様でござります」
部下の一人は、一応その人だかりの方をながめてから恐る恐る、
「高崎藩の手の者が、黒船を引揚げるといって騒いでおりました」
「ナニ、高崎藩で黒船を引揚げる?」
「左様でございます、先年、あの黒灰浦に、多分オロシャのであろうところの密猟船が吹きつけられて、一艘《いっそう》沈んでしまいました、密猟船のこと故《ゆえ》に、船を沈めてそのままで立去りましたのが、今でもよく土地の者の問題になります、それを今度、高崎藩が引揚
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